香川県さぬき市多和助光東30-1(旧 多和小学校)
2012年5月初旬に、熊本市立博物館の展示品リニューアル工事に伴い、シデロスタットシステム(シーロスタットの改良型)が廃棄されるとの情報が届きました。
熊本市立博物館の館長はじめ学芸員の皆さん、そして地元教育関係者の方の、廃棄ではなく、移設展示してくれる施設に引き取ってもらえないかというニーズと、昼間の観測設備としてシーロスタットを探していた天体望遠鏡博物館のニーズが一致しました
リニューアル工事の日程上、6月初旬までに回収を完了させる必要がありました。
そこで、5月15日に熊本市立博物館に事前調査に向かいました。しかしながらシーロスタットと違って、シデロスタットに関しての資料が我々にはなく、大きさのイメージが湧きません。また、どのような場所に設置されているのかもわかりませんでした。しかし、学芸員の皆さんの丁寧な対応のもと、開館から閉館時刻まで調査ができました。
調査のポイントは次の通りです。
①移設しても復元設置可能なシステムか
②トラック搬送可能な大きさまで分解可能か
③分解の手順はどうすればよいか
④必要な工具はどのようなものか
⑤搬出経路は確保できるか
⑥必要な人員と大型機材はどのようなものになるか
⑦搬出に必要な時間はどのくらいか
⑧安全性は確保できるか
シデロスタットは大きくは3つのシステムで構成されています。
1.太陽光を館内に導くため、建物壁面に開閉式の小屋があります。この中に平面鏡2面を組みあわせた太陽追尾赤道儀があります。太陽光を太陽追尾赤道儀の平面鏡で反射して館内の15センチの屈折望遠鏡に導きます。
2.館内に導かれた太陽光を15㎝屈折望遠鏡で結像させます。
3.分光室内のユニット群です。太陽光を分光し、白色光、スペクトル、Hα光の3つで観測できるようになっています。
建物壁面に設置された開閉式の小屋(スライデイングルーフ)です。
左側の平面鏡で太陽光を反射させ、右側の平面鏡でさらに反射させ、床の穴から館内に太陽光を導入する仕組みです。
斜めに突き出ているパイプの中に15㎝屈折望遠鏡が入っています。
接眼部は分光室内にあります。
この15㎝屈折望遠鏡の取り外し方ですが、分光室内の鏡筒バンドでとめているだけのようです。しかし白いカバー筒の前方から、引っ張り出すにはかなりの力が必要な感じです。足場を組み立てれば、力のはいる姿勢で引っ張れますが、高い脚立の上での作業にならざるを得ないでしょう。
分光室内の15㎝屈折の接眼側です。追尾装置などはなく、ただ単に固定しているだけです。
様々な光路をたどって白色光、スペクトル、Hα光に分かれます。
分光室内の非常に複雑に見えたシステムも、光路図を書いてみると、各ユニットの役割がわかってきました。そして移設復元設置のためには各ユニットそのものはそれ以上分解してはいけないことも判明しました。
またユニットの固定方法を調べるためにスカート部を外してみると、床とボルト接合されています。驚いたのは、ボルト穴を開け直した跡がまったくないことです。
このシステムはなによりも各ユニットの配置そのものが最重要なはずです。数十メートル離れた3階屋上からの太陽光を1階に導き、設計図どおりの光路図を分光室の床面にボルト穴の位置として一発で再現したということです。
この設置作業を行った五藤光学研究所の技術者に感服です。我々は、復元設置のために、このボルト穴の位置を正確に書き写す必要があります。
また各々のユニットで使用されているパーツはそれそのものが魅力的なものでした。写真のプリズムはひとつの大きさが手のひらからはみ出すほどです。
屋上壁面のスライディングルーフ内の追尾装置ですが、一目見て、プロの手が必要だと感じました。
平面鏡の厚さ、重量感のある一つ一つの金属パーツ、電気回路などどれをとっても、アマチュア天文家が構造を理解しないままに分解してはいけないと感じます。
スライディングルーフ内は光路穴を防げば転落はありませんが、急斜面の屋根で何人もが作業するのは危険です。安全用具を整える必要があります。
そしてさらに悩ましいのは、建物の空きスペースには機関車、双発プロペラ飛行機、ヘリコプターが静態保存されていてクレーン車を建物近くまで入れる進入路が確保できないことです。
この重量物をどうやって3階から降ろすか? 搬出路を探ると幅40㎝の屋根と屋根の間をとおるしかありません。
つまり4人で持ち運ぶスペースはなく大人2人で持つしかないということです。屋上から2階の間には狭い階段もあります。これは搬出当日まで検討課題となりました。
事前調査後、その内容を天体望遠鏡博物館の会員、関係者と協議し、回収計画が作成されました。
今回の回収班は3班になりました。第1班は2泊3日コースで、シデロスタット分解を主業務とします。第2班は1泊2日コースで、トラックへの搬入と熊本から香川への移送が主業務となります。第3班は東かがわの倉庫への搬入と車両手配などの後方支援が主業務です。
さて、回収の日が来ました。第1班3人は香川を夕方、出発し瀬戸大橋経由で下関のSAで一泊です。
2012年6月1日朝、福岡に仕事で出張中だった会員と制御回路関係のプロである木村氏が加わり、5人が熊本市立博物館に集合しました。全員で搬出経路を再確認。
分光室は地下1階部分になります。
屋上のシデロスタット本体(太陽追尾赤道儀)を確認に向かいます。
建物と建物の間に乗っかっているように見えるのが、スライディングルーフです。
屋上スライデイングルーフでのシデロスタット本体の分解はヨシカワ光器研究所 吉川代表と電気回路の専門家 木村氏に行ってもらうことになりました。
この日は湿度が高く、汗が噴き出てきます。
その中での重量物かつ精密品の分解ですから大変です。
3人で床にボルト締めされている分光機器を外して、室外に搬出します。
分光室内の機器は、15㎝屈折望遠鏡を残すだけになりました。
追尾装置はとても頑丈なもので、分解作業は困難なものでしたが、人力で持ち運び可能なレベルまで、分解されていきました。あとはフレームを残すだけになりました。
3日目の朝、前日の夜に香川を出発し愛媛から大分にフェリーで渡った第2班のトラックが熊本市立博物館に到着しました。第2班は会員のS氏といつも協力してもらっている建築業ハウスサービスの長町さんです。
分光室外に搬出していた分光ユニットを1階の搬出口まで運びます。台車とエレベーターが使えるので順調に作業が進みます。
各ユニットが出された分光室内ではユニットのボルト位置をY氏が、根気よく書き写してくれていました。写真はそれをもとにユニット配置図にしているところです。
シデロスタットを説明してい大型展示ボードも持ち帰ることにしましたが、鉄フレームからの取り外しができず、苦労していていたところ、エンジン展示物の搬出作業をされていた引っ越し業者の方が見かねて、手助けして下さいました。ありがとうございました。
熊本から香川までの長距離輸送で機器が傷まないように積み込みます。
無事に熊本市立博物館内での作業を終了しました。次は熊本から香川へのおよそ8時間の移動です。東かがわ市の倉庫への搬入は翌朝から第3班も加わって行いました。
天体望遠鏡博物館 大型望遠鏡展示棟での組み立て
~続く~